身体は拡張する?腕が伸びる実験
人の体験価値を向上させるUser Experienceを考える時,人の勘違いを利用するのも一つのアイディアです.
勘違いは知覚情報を脳が効率的に処理するために起こるちょっとしたエラーと言われます.毎日の行動を決定する時にじっくり考えてから一つ一つ判断して行動していては生活に支障を来しますので,少しのエラーを見逃して効率的に処理をするのは人の脳が持つ合理的な特性と言えます.
今回紹介する実験では,人の身体感覚が間違った知覚情報によってどれくらい勘違いするかを調査しています.
実験では体験者の人には自分の右腕を横に伸ばすよう指示します.対面においてあるモニターでは体験者の人の動作をカメラでとらえ,その動作を鏡写しした映像が表示されていますが,モニター上では腕を伸ばした時に画像処理によって横に何倍にも伸びるような処理を施しています.腕を伸ばす時に少し伸びる演出を触覚的にも感じることができるように腕に血圧計の腕帯を巻いて右腕を横に伸ばすタイミングで圧縮空気を充填して少しだけ腕をしめつけるような演出をしています.
腕を横に伸ばす(画像処理なし)
腕を横に伸ばす(画像処理あり)
上の写真に右腕の先に白く見えるのは黒板につけた白いマグネットです.このマグネットが自分の立っている位置からどれくらい先にあったかを腕を横に伸ばす実験をした後に聞いています.体験者の人には画像処理がない見たままの腕を伸ばす体験と,画像処理がある腕が横に何倍も伸びる体験の両方を体験してもらいました.(体験者によって体験の順番はバラバラにしています.)
下のグラフは画像処理ありとなしでそれぞれの体験者の人が回答したマグネットの位置の差を示しています.
実際のマグネットの距離の差
今回は簡単な予備実験で,人によっても差があるのでなんとも言えませんが,1番の体験者の人はマグネットの位置の差が49cmも広がっていました!
腕が実際に伸びたわけではないのですが,腕がぐんと伸びていく姿をリアルタイムに見ることで勘違いが起こっていると考えることができそうです.
バーチャルリアリティの研究では,自分の姿を変えることで楽器の練習の習得度が向上したり,ゴルフのプレイ体験を実際よりもうまく見せることで運動能力が向上するなどの報告がありますが,テクノロジーを利用して自分自身の身体感覚を変えて勘違いを引き起こすことで苦手なことに対応できたりモチベーションが維持されるなど,well-beingを上げるnudgeになりそうです.